地域性も歴史も異なる7県が、行政区域を越えて連携し、「瀬戸内」という切り口で広域観光を推進。瀬戸内のブランド力向上で成果をあげ、来春には「せとうち観光推進機構」を設立し、取り組みのさらなる強化を図る。
瀬戸内を共有する7県が連携し、広域観光を推進。
多様な地域資源を発信し、観光客の周遊性を高め、「瀬戸内」のブランド化を高めた
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、国をあげた外国人観光客の獲得が進められている。各都道府県が外国人向けの観光施策に取り組んでいるが、個別施策では限界もある。そこで現在注目されているのが、「広域観光」だ。
行政区域で観光スポットを区切るのではなく「エリア全体」を観光地として確立し、周遊を促すためには、地域の魅力を統括してマーケティングとマネジメントを行う組織体制「DMO(Destination Marketing / Management Organization)」が重要となる。そうした中で、早くから従来の行政区域を越えて広域観光を推進していたのが、「瀬戸内」だ。
2013年4月に、任意団体「瀬戸内ブランド推進連合」を発足し、観光客の周遊性を高める広域的な施策を展開。地域性も歴史も異なる7県(兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県 、香川県、愛媛県)が連携し、さまざまな事業に取り組んだ。「行政区域を越えて、瀬戸内の魅力を広域に発信したい」という認識を共有したことが、各県の連携を可能にしたという。
北海道や沖縄に比べると、瀬戸内の持つブランド力や認知度はまだまだ低い。来訪者を増やすためには、瀬戸内のブランド力と認知度を高める必要があった。そこで、SNSで瀬戸内各地の地域情報を提供する「瀬戸内Finder」を開設。海外発信を目的としたプロモーション動画も作成した。
また、瀬戸内のさらなるイメージアップを図るため、「瀬戸内」のブランド化を推進。瀬戸内ブランドサポーターを結成し、瀬戸内の魅力ある資産を使った観光関連サービスや地域産品など、プロダクトの開発を行う民間企業を募った。各業界から集まった約300社のサポーター企業が400以上の商品・サービスを開発。日本全国に販売され、消費者が店頭やTVCMで「瀬戸内」を目にする機会を増やすことができた。
これらの取り組みにより、国内外の「瀬戸内」への関心は高まっていった。官民一体となった「ブランド戦略」により、2012年には23.9%だった瀬戸内への来訪意向は、2014年には29.5%まで上昇している。
今年7月、瀬戸内7県の知事及び金融機関の代表が会見し、「せとうち観光推進機構」の設立を発表
成果を出す一方、瀬戸内ブランド推進連合にも課題があった。連合メンバーは瀬戸内7県の行政だけ。厳しい地域間競争を勝ち抜くには、民間ノウハウを活用したよりダイナミックな展開が必要になる。そこで、県から独立し、より迅速・的確に意思決定ができる専門組織「せとうち観光推進機構」の設立が決まったのである。
「日本版DMO」としての役割を担う同機構が目指すのは、より精度の高いマーケティング戦略と外国人観光客の集客。首都圏等における瀬戸内への来訪意向を北海道・沖縄と同程度の50%まで高めること、外国人延宿泊者数を360万人まで伸ばすことを、2020年までの目標に据えている。2016年4月の設立に向け、この半年で国別のデータを分析。戦略と方向性を決める準備を急いでいる。
「せとうち観光推進機構」の最大の特徴は、推進体制に金融機関が入っていること。民間企業が新規事業に参画したり、事業規模を拡大したりするとなると、金銭的負担は避けられない。金融機関が資金面と経営面で民間企業をサポートすれば、瀬戸内海を活かしたクルーズ商品や瀬戸内の美しい風景を楽しめる宿、瀬戸内の特産品を使った商品など、プロダクト開発もしやすくなる。
「瀬戸内の強みは、島・食・歴史・文化など、幅広くあります。瀬戸内ブランドの旗艦として、より強いリーダーシップを発揮して特徴を打ち出し、他の地域との差別化を図っていきたいと考えています」(瀬戸内ブランド推進連合事務局長・村上隆宣氏)
「せとうち観光推進機構」は、官民一体となった観光マーケティングで各地域の魅力を発掘・発信し、日本版DMOの先陣を切っていく。
村上隆宣 瀬戸内ブランド推進連合 事務局長