国際会議や見本市、企業研修といったビジネストラベル・MICEは、交流人口拡大の方策として各地で誘致競争が激化している。沖縄県で数多くのMICE誘致を成功させてきたDMC沖縄の徳田社長は、「地域の特徴を活かした誘致」の重要性を指摘する。
DMC沖縄では、グローバル企業のアジア太平洋地域会議や報奨旅行の受注が増えている(琉球古民家を利用したパーティ)
サンゴ礁に囲まれた美しいビーチリゾート、亜熱帯海洋性気候が育んだ豊かな自然と深い森、琉球国時代から続く独自の歴史と文化…。MICE開催地として大きな魅力と可能性を秘めた沖縄で、2006年に設立されたDMC沖縄。
DMC(Destination Management Company)とはMICEなどに関して目的地・開催地で発生するあらゆる種類の業務を提供する企業を指すが、同社は日本でその草分け的な存在だ。ビーチや離島、首里城や琉球古民家などを活用した、チームビルディングやパーティのための独自プログラムが人気を集めており、企業の報奨・研修旅行を中心に国内外から多数のMICE誘致に成功している。
「MICEと言うと、とかく大型の国際会議や見本市などをイメージしがちですが、実際には開催規模は十数人から数万人までさまざまです。自分たちの地域に最適なMICEを見つけ、誘致することが大切です」と徳田博之社長は話す
徳田博之 DMC沖縄 代表取締役社長
人気チームビルディングプログラムの『Making Okinawan Music』。
地域資源は加工方法次第でMICEに活用できる
徳田氏は日本を代表する大型複合コンベンション施設パシフィコ横浜の立ち上げ(1990年~)に関わって以来、1000件以上のMICEの企画・運営に携わってきた。
そんなMICEのプロフェッショナルが起業をした理由は大きく2つある。
まず、沖縄の可能性に惚れ込んだこと。東アジアの中心に位置する沖縄は、各国から人が集まりやすい環境にある。さらに「日本の中でも少し異質な気候や文化を持つ沖縄は、特別なブランドです。この地域の持っている資源は、国内のお客さまにも、海外のお客さまにも何かを訴えかける力があります」と言う。実際にDMC沖縄でも、グローバル企業のアジア太平洋地域会議や同地域からの報奨旅行の受注が増えている。
そしてもう一つは、「DMCという機能が今後、必ず地域に求められる」という確信であった。
「MICEの経済効果の中で裾野が広く地域産業にあたえるメリットの大きいものは、主催者が消費する事業費から生まれます。しかし、MICEの準備段階でさまざまな企画がされても、その立案や運営は、主催者の足元の地域で受注されてしまいます」。地方都市でのMICE開催の場合、地元に落ちる事業費は全体の4割程度で、残り6割は東京などの発地で消費されています。
「これではMICE誘致が真の地域振興にはなりません。地域外からマーケットを引っ張り、開催地に事業費が落ちる仕組みをつくるには、主催者の遠隔地パートナーとして企画段階から関われるDMCが必要になります」
DMC沖縄が手がける事業は大きく二つ。デスティネーション・マーケティングとデスティネーション・マネジメントだ。
マーケティングでは、MICE開催地としての沖縄の価値を高めるため、MICEに取り組む人材の育成や、地域資源を活かしたMICE商品・サービスの開発などを行う。そして、実際に沖縄での開催が決まれば、滞在中のキメ細かなサービスから専門的なプログラムまでをマネジメントし、那覇空港に到着してから空港を出るまでの全行程をワンストップサービスで提供する。
各種プログラムの開発や実施では、積極的に地元事業者と連携している。例えば、人気チームビルディングプログラムの『Making Okinawan Music』。三線や島太鼓など沖縄の伝統的な楽器4種類を使い、2時間で楽器と曲をマスターし、合奏に挑戦するといった内容である。「このプログラムでは、地元アーティストを講師として育成し、教本のデザインや印刷も地元事業者が担当しています」
ほかにも、離島やビーチ、首里城など沖縄ならではの空間を活用したアクティビティや、琉球文化に焦点を当てたレクリエーションなど、地域の素材を活用したプログラムを多数開発している。
「ホテルや会場といった施設だけでなく、自然や食べ物などあらゆるものは加工方法次第でMICEの主催者にとって有益なプロダクトとなります。本業の延長にMICEのマーケットがある、さまざまな人たちにビジネスチャンスがあるという視点を持って、地域を盛り上げることが大切です」
大型MICE施設が建設予定の中城湾港マリンタウン地区
沖縄県もMICEを観光振興のための有望な手段と捉えている。2015年6月には、本島南部東海岸の中城湾港マリンタウン地区に、収容人数2万人規模の大型MICE施設の建設を決定。2020年の運用開始を目指している。
徳田氏は「今までの沖縄になかったキャパシティの施設であり、新たな規模のマーケットを取り込めるはず」と期待を込める。
一方で課題もある。沖縄の観光格差は「西高東低」と言われ、マリンタウン地区は観光開発がほとんど進んでいない。MICE誘致だけでなく、土地・地域の魅力づくりが求められる。「MICEの来場者がエリアで食事や買い物を楽しめて、周辺の町や観光名所に行くための交通ネットワークも整っている、『コンパクトMICEシティ』の構築が必要でしょう」と徳田氏は指摘する。そうした魅力づくりのためには、地元事業者の積極的な関与と、行政との密接な連携が不可欠だろう。