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地域連携DMOが取り組むインバウンド施策 協業が「儲かる」地域をつくる

全国でインバウンド需要の取り込みが図られる中、地域連携DMOとして観光戦略をまとめ、民間企業と積極的に協業するなど、独自の取り組みが全国的に注目される一般社団法人秩父地域おもてなし観光公社。その先進的な行政の取り組みに迫る。


台湾からの修学旅行を受け入れる際、民泊や学校交流も行っている

都心からほど近く、広大な芝桜やアニメの聖地としても有名な埼玉県秩父地方。「ちちぶ定住自立圏構想」という名の下、1市4町(秩父市・小鹿野町・横瀬町・皆野町・長瀞町)が、共同で必要な都市機能や生活機能を充実させていく事業が実施され、その中の観光分野を牽引しているのが、一般社団法人秩父地域おもてなし観光公社だ。

「公社を設立(2014年)して、最初に意識したのが地域のマネージメント(連携強化)、そして、滞在型観光を中心に進めてきましたが、今年は大きな収益が見込める『外国人観光客の誘致』に注力しようと『インバウンド元年』と位置付けています」と語るのは事務局長の井上正幸氏。秩父は今、東京オリンピックの開催が近づいていることや、西武鉄道による観光客誘致のCMもあり、市民にもインバウンド獲得への空気が醸成されている。


井上 正幸 一般社団法人秩父地域おもてなし観光公社 事務局長

予算に限りがあるからこそ民間企業とタイアップ

長年行政の立場から、行政も観光協会もフォローできていない観光課題の受け皿の必要性を感じていた井上氏。小回りがきき、民間からの相談にワンストップサービスができる組織として一般社団法人秩父地域おもてなし観光公社を設立、地域連携DMO(Destination Management/Marketing Organization)の第一弾登録を行った。

公社の特徴的な個性が、民間企業との協業にある。行政は行政で、西武鉄道は西武鉄道で…と個々に観光事業を展開していては、いくらお金があっても足りない。だからこそ、縦割りにせず、地域の関係者を集めて会議を重ね、予算も出し合うことで効率も当事者意識も高まる仕組みを構築している。

民間企業との協業では、西武鉄道は秩父地域の観光産業を語る上では欠かせない存在だ。「公社立ち上げ期より人材交流が始まり、その後社内に秩父チームができ、さらに西武鉄道内に生まれたインバウンドチームの担当者とも組むようになって「インバウンド政策コア会議」が生まれて。やはり見方が違うので一緒にやる意味は大きいです」。今では西武鉄道のインバウンドチームと事業協力などより発展した形でタイアップを図っている。

0からの立ち上げではない予算と経験とやる気の掛け算

先述の「インバウンド政策コア会議」は、月に一回、観光施策の中でもインバウンド対応について、意見を出し合う場だ。若手職員や地元・東京の企業から約60人が集い、それぞれ持ち味を生かしたプレゼンを展開して吟味する仕組みが確立されている。

今年6月に開催された会議では、今後のターゲットとして台湾、タイ、アメリカ、フランスの4カ国を選定。この4カ国を選定するに際し、定量的なデータだけでなく、「埼玉国際観光コンシェルジュ台湾オフィス」を設置している埼玉県、タイからの観光客誘客に積極的な地元の旅館、秩父地場産業振興センターが昨年から始めたアメリカでの物産販売、西武鉄道をはじめとした民間事業者などとの協業を重視。地域が持つリソースを最大限活用し、効率よく成果をあげることを目指す。

日本全国で、人を集めること自体が目的となり、成果に結びつけられない会議が数多く開催される中、秩父地域では地域を巻き込んだ会議が効果的に機能している。その理由に、公社が行政であるにも関わらず、下請けに入る意識を有していることがある。地域活性化の難しさは、行政も事業者も全員がクライアントになることにあり、円滑に進むようサポートする存在が必要だと井上氏は説明。「総論賛成・各論反対はあって当然のことで、根気強くまとめていくことが必要です」。

そして、現場と決定権を持つ担当者、民間と行政など様々な意見の調整役として奔走する上で、不可欠なのが「精神力」。「特にインバウンドをやろうと言うと、若手が手を上げていい意見を出してくれる。ただそれを通すのは根気がいる。そこをおろそかにしてはいけません」。

このように全員で意見を出し合い納得することで、一時的な流行に左右されることを防いでいる。

ニーズを掴み、企画を開発

公社は、西武鉄道によるインバウンド向けに制作した多言語に対応した秩父地域ガイドの制作への協力など、数多くのインバウンド施策を手がけているが、中でも特筆すべきコンテンツが、民泊の切り口で全国的にもニュースになるなどすでに成果を上げている台湾の事例だ。調査の結果、台湾の修学旅行には民泊と学校交流がキラーコンテンツとなることが判明。民泊できる場所は少なく、受け入れ態勢の整備に非常に困難が伴うが、ブームや思い込みに流されることや失敗を恐れることなく、的確なニーズのキャッチと地道な環境整備を行った。その結果、今年から台湾の修学旅行受注に成功している。

また、今年秩父では「インバウンド元年」としてフィールドリサーチに力を入れている。すでにあるコンテンツに満足せず、新たなコンテンツを開発していくために、外国人が何を求め、どこへ足を運び、何にお金を支払うのかを分析する。「地域ブランドの確立と特産品の販促」の核となる物販にも着手予定だ。その循環で投資が生かされ、地域が潤い、雇用も促進され、活性化にもつながる。インバウンドへの期待は大きく、公社が今後どんな企画を発信し結果を出していくのか目が離せない。




西武鉄道が制作した多言語対応(英語、中国語、タイ語)の秩父地域ガイド。
行政と民間の垣根を超えて、公社も制作に協力している

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