これまで効果的に活用できていなかった客観的なデータを基に、岐阜県下呂市では、観光地マーケティングのメニューの企画を始めた。行政・地域社会・民間事業者の連携が始動している。
下呂温泉は東日本大震災に見舞われた2011年、宿泊客が激減した。翌年の2012年には関越自動車道高速バス事故、2013年は「東京ディズニーリゾート30周年『ザ・ハピネス・イヤー』」アニバーサリーイベント、「富士山」世界文化遺産登録、御嶽山噴火、伊勢神宮式年遷宮、USJハリーポッターオープンなどの出来事も続く。
そこで下呂市では震災を機に「下呂市観光客特別誘客対策協議会」、誘致宣伝委員会(下呂市、旅館組合、商工会、観光施設、市内観光協会など)を設立。各組織が管理するデータを集約し、定期的に会議を行い年間プロモーション計画を策定した。
委員会には専門家がいるわけでもなく、旅行会社からの人員派遣もないが、マーケティング会議は頻繁に行っている。下呂温泉が様々なアクシデントを乗り越え宿泊客数を伸ばしてきたのは、このデータを基にして企画された観光マーケティングの成果といえるだろう。
平成22-28年度の観光客数推移(下呂温泉観光協会より提供)
観光庁は2015年より、日本版DMO候補法人の登録制度を定めた。その基本的な役割・機能として次の実施が必須要件とされている。・ 観光地域づくりを行うことへの多様な関係者の合意形成。・ 各種データ等の継続的な収集・分析、データ、明確なコンセプトに基づいた戦略(ブランディング)の策定。KPIの設定・PDCAサイクルの確立。・ 関連事業と戦略の整合性に関する調整・仕組み作り、プロモーション。
これまで観光地は主に客観的なデータの収集や分析を行っていた。しかし、下呂温泉ではまずKGI(経営目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)、PDCAサイクルを明確化する組織を構成した。2011年からはマーケティングにも力を入れ、観光協会では、総務委員会、誘致宣伝委員会、おもてなし委員会、まちづくり委員、交流研修委員会などを組織した。
誘致宣伝委員会は下呂市、同市の旅館組合、商工会、観光施設、市内観光協会からなり、年間のプロモーション計画を策定している。このプロモーションは、岐阜県観光誘客課・岐阜県観光連盟・JR(飛騨地域観光協議会)とも連携し、旅行会社や調査・企画会社に調査データを基にした商品開発を依頼し、新規顧客・リピーター獲得につながる成果も上げている。
下呂温泉では地域内に様々な足湯スポットを設け、周遊とともに温泉を楽しんでもらえるよう街並みを整備している
下呂市ではDMO機能構築支援事業を昨年6月に立ち上げた。11月からは支援事業の一つである下呂温泉魅力発見・ブランド発信業務の「食べ歩きができるスイーツ開発事業」がスタートしている。下呂温泉らしい新スイーツの開発とプロモーションで、観光客の滞在時間延長と消費行動の喚起、満足度向上を目的としている。また下呂市観光プロモーション用素材作成として、下呂市の四季を紹介する動画や写真の撮影を実施し、SNSでの発信も企画している。また、古くから草津温泉・有馬温泉とともに「日本三名泉」と称されていることを強みに、観光協会単位で連携と共同事業を具体化し、インスタグラムを活用した日本三名泉PRも行っている。さらにオフラインアプリの導入や、メディア活用・ウェブプロモーションなどを行う。
下呂温泉街の阿多野谷沿いで開催される「いでゆ夜市」。毎回、様々なアトラクションが企画される
下呂温泉では、大きな地域資源である自然環境の保全も重要な課題だ。下呂版DMOは自然環境と環境保全も重要視し、観光振興+地域振興+環境保全のエコツーリズムを考えている。
さらに着地型観光環境整備・モニターツアー実施業務では、エコツーリズム全体構想の作成や学生を活用した地域活性化・旅行商品開発事業、教育旅行受入体制整備・誘致事業、下呂温泉を中心とした広域観光拠点における体験型滞在型プログラムの開発、下呂・中津川地方の観光ルートマーケティングなど広域エコツーリズム実現も目指している。地域住民の参画なくして下呂の自然・歴史・文化を守ることは不可能であり、自然・歴史・文化の持続なくして観光は成立しない。また経済効果も上げなければならない。エコツーリズムの基本は観光振興・地域振興・環境保全のトライアングルなのである。
今後、下呂温泉観光協会では、自然・歴史・文化など、下呂固有の資源を生かした観光にも重きをおき、観光によって資源が損なわれないよう、観光資源の管理・保護・保全を図り、エコツーリズムによる経済効果を得ることにも力を注ぐという。
様々なアクシデントによって国内経済が厳しい局面に見舞われる中、好調が続く下呂温泉。インバウンドも追い風となったが、客観的データを基にしたパブリシティ、プロモーション、ブランド発信業務、マーケティングなど、下呂版DMOの取り組みによる成果であることは確かだ。