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DMOの観光地マーケティング ニーズを捉え「売れる仕組み」を

大量生産を実現した製造業で、大衆に対し商品が「売れる仕組み」として現代のマーケティングは創造・発展してきた。近年では範囲を広げ、サービス、医療、観光の領域でも取り組まれている。

 観光に関わるマーケティングは二つに大別される。一つは、旅行会社、ホテル・旅館(宿泊施設)、航空会社(交通機関)など観光に関わる企業が、自らの事業への需要を創出するために行う一連の活動である。もう一つは、特定の観光目的地への需要創出を目的として、国レベルでは政府観光局、地域レベルでは自治体や観光協会などによって行われる活動である。

 後者は特に観光地(デスティネーション)・マーケティングと呼ばれており、これからは、観光地経営の主体であるDMOがその実行権限と責任を持ちながら役割を果たしていく。本稿ではDMOによって展開される観光地マーケティングの三つの留意点について述べる。なお、以下では特に断りのない限り、マーケティングとは観光地マーケティングを指す。

効果的実行のマネジメント

 DMOについての議論が盛んになる中で、マーケティングに対する関心が高まってきている。しかし、市場調査やプロモーションという認識に留まっている関係者は多い。それらは、マーケティングの中核であるが、全体を示しているわけではない。

 図1はマーケティングのプロセスを示している。まず観光振興のビジョン(3~5年後の望ましい将来像)に合わせ、各種調査・分析が行われる。それに基づき、マーケティング目標が数字で示され、具体的な戦略作りが始まる。市場のセグメント化により、ターゲットとする国や地域、年齢層、地域の資源を選好する価値観をもった人たちが特定されていく。その際、似たような資源で観光振興を進める他の競合地域との違いを明らかにするため、自分たちのポジションを明らかにしていくことも必要である。

 その後、ターゲットに向けて何を、どのように伝えれば、効果的なコミュニケーションができるかを練り上げていく。その際は地域の観光資源や体験、サービスといったコンテンツの価値を中心に伝えることになるが、アクセスの良さ、地域の雰囲気を伝えるとともに、旅行会社の協力を得て値頃感を感じるような商品造成も必要になるだろう。そして、効果のモニタリングを行い、上手くいかなかったならその要因を明らかにし、マーケティングプロセスの然るべきステップにフィードバックして、戦略を修正することになる。

 こうした一連の諸活動を組み合わせてマーケティング全体を計画し、効果的に実行することをマーケティング・マネジメントという。

観光のマネジメント特性を知る

 優れた業績を上げている観光地や観光企業に共通するのは、観光事業に特有のマネジメント特性を理解したマーケティングを推進している、ということである。それは、サービス・ビジネスの特性である(1)無形性、(2)不可分性、(3)異質性、(4)消滅性の4点と、観光ビジネスに特徴的に表れる(5)アセンブリー性(集合性)、(6)季節性、(7)立地性、(8)資本集約性の4点に集約できる。

 例えば「季節性」は季節や曜日による観光需要の変動を指しており、学校行事や企業の休暇制度等による旅行者側の要因と、桜の名所、海水浴に好適な海のように観光地側の要因に起因するものに分けられる。このため、観光地はオフシーズンに対する対策が重要なマーケティング課題であり、例えば、中華系民族の旧正月(春節)の休暇などは、1月末から2月の初めにかけてオフシーズンとなる観光地にとって重要な意味をもつ。

 こうした特性を理解したマーケティングがDMOには必要である。

行政区域にこだわらない

 従来、自治体は自らの行政区域(地理的範囲)を基準に観光目的地を設定1)し、マーケティング活動を行ってきた。しかし、「萩・津和野」という観光目的地は山口県と島根県にまたがり、各自治体の地理的範囲を超えている。2地域間のアクセスの良さや、歴史的景観などを目的とする旅行では、二つをセットで提示した方が消費者への訴求力が増すこともあって、JRなど民間事業者は旅行客の観光行動に即した提案を行っている。また、神奈川県は「Tokyo Day Trip」というサイトを作り、外国人にWeb検索されやすい「Tokyo」を前面に押し出す2)ことで、自県への実質的な観光客誘致につながる取り組みをしている。

 日本版DMOでは、広域DMO、地域連携DMOなど、地理的範囲を乗り越えたマーケティングの実行組織が作られてきている。今後は更に徹底的な消費者志向に基づく提案をしていくことが不可欠である。

 日本において、観光地マーケティングは未だ浸透していない。観光事業のマネジメント特性と消費者志向に基づいたマーケティング・マネジメントがDMOに求められている。

1)藤田健「観光のマーケティング・マネジメント」高橋一夫・柏木千春編著『1からの観光事業論』63頁、碩学舎、2016年
2)トリップアドバイザー株式会社シニアマネージャー西林祥平氏の示唆による

高橋 一夫(たかはし・かずお)
近畿大学経営学部 教授
大阪府立大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。1983年JTB入社。2007年より流通科学大学サービス産業学部教授を経て2012年より現職。主な著書に、『CSV観光ビジネス』(藤野公孝と共著、日本観光研究学会学会賞、学芸出版社、2014年)、『DMO:観光地経営のイノベーション』(学芸出版社、2017年、近刊)。

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